大判例

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釧路地方裁判所 昭和50年(わ)245号 決定

少年 I・N(昭三二・三・一五生)

S・S(昭三一・一一・三日生)

主文

本件を釧路家庭裁判所に移送する。

理由

被告人両名に対する公訴事実の要旨は、「被告人両名は、A、BおよびCと共謀のうえ、○向○子(当時一五年)を強いて姦淫しようと企て、昭和五〇年八月一七日午後九時三〇分ころ、北海道釧路市○○×番地付近の○○湿原上に駐車していたB所有の普通乗用自動車内において、被告人両名が同女に対し、「冗談じやないぞ、ふざけるな」「俺にもやらせろ、いいじやないか」などと申し向け、抵抗する同女の顔面を手掌で一回殴打し、その身体を押えつけるなどしてその反抗を抑圧したうえ、順次同女を姦淫し、その際同女に対し、全治八日間を要する処女膜(膣口)裂創の傷害を負わせたものである。」というのであつて、右事実は当公判廷で取調べた関係各証拠によつて明らかであり、被告人両名の各所為はいずれも刑法六〇条、一八一条(一七七条前段)に該当する。

そこで、以下被告人両名の処遇について考えてみる。

被告人両名の本件犯行は、一五歳の性経験のない少女を輪姦し、なおも傷害を負わせたもので、被害者および社会に与えた影響、犯罪の態様、結果の重大性に鑑みれば、悪質というほかなく、この際成人と同様に厳しく刑事責任を問うことも考えられる。しかしながら、被告人両名の経歴を考えてみるに、被告人両名は、いずれも、小学生のころ父を失い、その後は、数多い兄弟と共に母の手一つで経済的に苦しい母子家庭に育ち、このような環境のもとに小遣い銭欲しさ等から、中学生のころ窃盗事件を惹き起こしたことはあるものの、その内容、程度から児童福祉法に基づいてなされた誓約書提出等の措置以外には、特に処分を受けておらず、それ以後は中学校を卒業して職に就いた後においてもこれといつた非行もないまま、今回の事件を惹き起こしたものであつて、これまで家庭裁判所における保護処分歴は全くなく、非行性は未だ高度とまでは言えず、年令的にも成年に達するまでには九か月ないし一年有余の期間があるうえ、精神面においても少年らしい未熟さがうかがわれ、その資質面においても、自己顕示性、洞察力や自主性の欠如、追従的で周囲の雰囲気にのり易い等、各少年調査票で指摘されているように被告人両名に対し健全な育成を図るために矯正されるべき要保護性が認められる。

加えるに、被告人両名の性意識をみるに、ともに早く性経験をしているが、被告人I・Nの場合は、性交渉につき女性との長い交際や愛情を前提とすべきものであるというよりは、例えば街に出て声をかけて、きつかけができた女性をその相手に選択するといつたように、女性を単なる性のはけ口としてみている点、一方被告人S・Sは、相手の女性の同意さえ得れば何ら差支えないと強調するが、それは男性側の責任を追求されることのないことを理由としており、つきつめれば、これまでの女性歴から生まれた無責任な遊びセックス観ともいいうるのである。本件は被告人両名の前記のような性格的へだたりのほか、このような性意識もその背景となつて発生したことも否定しえず、これらの点についてもさらに指導育成を図るべき余地のあることを示すものである。

ひるがえつて、本件犯行がお盆休みの解放感と犯行当夜繁華街で偶々出会つた他の共犯者との集団化した心理下でなされたこと、および被告人両名に対しかりに刑事処分でのぞむときは、その犯情から刑執行猶予に付することは相当でなく、そのうえ本件においてはその法定刑から相当長期間の懲役刑が予想されること等を考え合わせると、現段階において、被告人両名に対し保護不適としてその刑事責任を追求し、保護処分による更生を断念するのは、やや時期尚早と考えられるのであつて、少年法の精神に鑑み、今後施設収容等による強力な保護処分を試みて、その非行性を除去し、かつ性格的偏倚を矯正することによつて、被告人両名の健全な育成を図るべく努力するのが相当であると考えられる。なお、付言するに、共犯者のBとCも、被告人両名と同様現在少年であつて、姦淫行為に出ようとしたが、被告人両名によつて強姦された被害者が強く泣き出した態度をみて、思いとどまつたことを考えれば、被告人両名と比較して犯情は軽いと認められるのであるが、BとCはすでに釧路家庭裁判所で保護観察処分を受け、その観察期間中にも自覚に乏しく、Bにおいては道路交通法違反を繰り返し、Cにおいてはシンナーに手を出すなど、生活態度は必ずしも良好でなく、在宅保護処分の効果があがつていなかつたこと、しかもB、C両名共にまもなく成人に達するという事情もあるので、この際、執行猶予付ながら刑事処分に付して同人らの更生を図るのを相当と考えた。

よつて、少年法五五条により被告人両名に対する各強姦致傷被告事件をいずれも釧路家庭裁判所に移送することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 野口頼夫 裁判官 遠藤賢治 広澤哲朗)

参考 受移送審決定(釧路家 その一昭五一(少)九四号・その二同九五号 昭五一・二・一九決定)

その一 少年I・N

主文

少年を釧路保護観察所の保護観察に付する。

理由

(非行事実)

少年は、昭和四七年三月中学校を卒業後電工などをして稼働していたところ、昭和五〇年八月一七日夜、友人A(当時二〇年)の運転する普通乗用自動車(トヨタセリカ・○××○××××)に同じく友人C(当時一九年)とともに同乗して釧路市○○町付近をドライブ中、当時盛り場で知り合つて間がないB(当時一九年)、S・S(当時一八年)と出会つた際、同人らとの間で適当な女性を誘つて、一緒にドライブすることの話がまとまり、右Bも自己の運転する普通乗用自動車(トヨタカローラ・○×○××××)にS・Sを同乗させたうえ、右二台の自動車で走行中、同日午後八時ころ、同市○○町×丁目×番地ゲームセンタースポット「○○○」前路上において、一人で友人と特ち会わせしていた○向○子(当時一五年)を認めるや、少年、S・S両名において同女に対し「ドライブに行かないか。」「五分位○○を流すだけだ。」と誘つて、B運転の自動車後部座席に同女を乗車させ、右自動車二台を連ねてしばらく同市内をドライブし、同市○○×丁目××番地所在の○○公園を経て、さらにS・Sの道案内で、右公園から約一五キロメートル走行して、同日午後九時三〇分ころ、人里離れた同市○○×番地付近の○○湿原に至り、同所においてそれぞれ右各自動車を駐車させ、同人らと共謀のうえ強いて同女を姦淫しようと企て、まずS・Sにおいて同女の乗車していた車内に入り込んで同女を強いて姦淫しようとしたが、同女に抵抗されたため、ひとたび右車内から出て、少年に代わり、同人において右車内で同女に対し「やらせてやれ。」と申し向けたところ、同女から拒絶されるや、同女に対し「冗談いうな。ふざけるな。」などと怒号したうえ、右平手で同女の顔面を一回力強く殴打し、なおも抵抗する同女を座席に押し倒し、ズボン、パンテイストッキング、パンテイを脱がし取るなどの暴行脅迫を加えてその反抗を抑圧したうえ、少年、S・Sの順で同女を強いて姦淫し、その際同女に対し、全治八日間を要する処女膜裂創の傷害を負わせたものである。

(該当法条)

刑法六〇条、一八一条、一七七条前段

(処遇の理由)

一 本件は当初昭和五〇年(少)第五四九号事件として当裁判所に係属し、同年九月二六日当裁判所が少年法二〇条によりこれを検察官に送致したところ、同月三〇日釧路地方裁判所に公訴が提起され、審理の結果、昭和五一年二月九日同裁判所において、少年に対しては直ちに刑事処分に付するよりもむしろ保護処分により矯正教育等の措置を講ずるのが相当であるとして、同法五五条により当裁判所に移送する旨の決定がなされたものである。

二 そこで以下少年に対する処遇について検討する。

(1) 本件非行は非行事実欄記載のとおり、その罪質、態様、殊に少年は主導的役割を果していること、被害の重大性、被害感情、社会に与えた影響等を考慮すると、極めて悪質、重大な行為というのほかなく、したがつて要保護性につき軽視できないものを窺わせ、この際少年を矯正施設に収容して行為の重大性を十分認識させて、深く反省を求めることも考えられないではない。

(2) ところで少年の資質面をみると、知能はIQ=八七で準普通域に属し、性格面では自己顕示欲および承認欲求が強く、また即行性、軽躁的傾向があるうえ、自己の感情欲求を抑制する力に乏しいなどの特性が認められ、本件において少年が主導的役割を果したのもこの資質面によるところが大きいものと考えられるのである。

しかしながら他面、少年は小学六年のとき父を失つて以来、数多い兄弟のいる貧困な母子家庭に育つたけれども、中学生のころ窃盗の非行(二件、児童福祉法二七条一項一号、二号措置がとられている。)、昭和五〇年五月五日道路交通法違反(普通乗用自動車の無免許運転)の非行を犯した以外にこれといつた非行はなく、しかも中学校卒業後転職はあつたけれども就業を続け、兄弟と相協力して家計を援助するなど職場において一応適応していたことに照らすと、その非行性は昂進しておらずまた少年自身社会的適応力を一応備えていると認められるから右資質面における性格的偏りも著しい性格的偏倚とは看做し難い。

(3) そうして本件非行がお盆休みの解放感と犯行当夜繁華街で偶然出会つた他の共犯者との集団化した心理下でなされたことに照らせば、少年がこのような非行に陥つた原因としては、盛り場徘徊等によつていわゆる不良仲間と交遊するうちに、日常の生活態度を乱して女性を単なる性のはけ口とする行動傾向を生み、これが前記資質と結びつきしかも幼少期より母親も稼働していたため、家庭内での教育、指導も不十分であつたことなどによるものと考えられるが、少年は長期間にわたる逮捕、勾留、観護措置等による身柄拘束および刑事裁判における審理並びに当裁判所における調査、審判等の経験を通じて事の重大性に目覚め、自己の非行および生活態度につきかなり内省を深めてきていることを看取でき、また資質面において上記のような欠点はあるにせよ、保護者(母)をはじめ他からの指導には率直に従う素地を備えていること、他方保護者も本件を契機として少年の更生につき関心を払うに至り、被害者に対しても誠意を示す態度をとり続けていることが認められる。

(4) 以上のような少年の資質、生活環境、非行性の程度、本件非行の原因、非行歴、保護者の監護能力等に照らせば、なるほど本事案は重大悪質な非行であるけれども、処遇決定にあたり、この点を重視しすぎることは相当でなく、少年を保護者による監護に加えて相当期間保護司らによる強力な指導、監督に委ね、在宅指導によつてその更生をはかることが可能かつ相当であると思料する。

よつて少年法二四条一項一号、少年審判規則三七条一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 塚田渥)

その二 少年S・S

主文

少年を釧路保護観察所の保護観察に付する。

理由

(非行事実)〈省略〉

(該当法条)

刑法六〇条、一八一条、一七七条前段

(処遇の理由)

一 本件は当初昭和五〇年(少)第五五〇号事件として当裁判所に係属し、同年九月二六日当裁判所が少年法二〇条によりこれを検察官に送致したところ、同月三〇日釧路地方裁判所に公訴が提起され、審理の結果、昭和五一年二月九日同裁判所において、少年に対しては直ちに刑事処分に付するよりもむしろ保護処分により矯正教育等の措置を講ずるのが相当であるとして、同法五五条により当裁判所に移送する旨の決定がなされたものである。

二 そこで以下少年に対する処遇について検討する。

(1) 本件非行は非行事実欄記載のとおり、その罪質、態様、殊に少年はI・Nとともに姦淫に及ぶなど本件非行に積極的に関与していること、被害の重大性、被害感情、社会に与えた影響等を考慮すると、極めて悪質、重大な行為というのほかなく、したがつて要保護性につき軽視できないものを窺わせ、この際少年を矯正施設に収容して行為の重大性を十分認識させて、深く反省を求めることも考えられないではない。

(2) ところで少年の資質面をみると、知能はIQ=八六で準普通域に属し、性格面では物事に対して積極性に欠け、自主性も乏しくて追従的で周囲の雰囲気にのり易い等の点はあるけれども、全体として偏りの少ない性格特性を有している。

他方少年は小学四年のとき父を失つて以来、数多い兄弟のいる貧困な母子家庭に育つたけれども、中学一年のとき窃盗の非行(昭和四四年一〇月一三日児童福祉法二七条一項二号措置がとられ、昭和四六年七月三日右措置は良好解除されている。)、昭和四六年八月二九日窃盗未遂の非行(同年一〇月一二日当裁判所で審判不開始決定)を犯した以外にこれといつた非行はなく、しかも中学校卒業後転職は多かつたけれども就業を続けていてその非行性は昂進していない。

(3) そうして本件非行がお盆休みの解放感と犯行当夜繁華街で偶然出会つた他の共犯者との集団化した心理下でなされたことに照らせば、少年がこのような非行に陥つた原因としては、少年自身の持つ性格的負因よりも盛り場徘徊等によつていわゆる不良仲間と交遊するうちに、日常の生活態度を乱して女性を単なる性のはけ口とする行動傾向を生みかつ保護者(母)において放任傾向にあつて、家庭内での教育、指導も不十分であつたこと等を指摘しうるところ、少年は長期間にわたる逮捕、勾留、観護措置等による身柄拘束および刑事裁判における審理並びに当裁判所における調査、審判等の経験を通じて事の重大性に目覚め、自己の非行および生活態度につきかなり内省を深めてきていることを看取できるだけでなく、保護者(母)をはじめ兄姉達は本件を契機として少年の更生につき関心を払うに至り、長兄の勤務先に少年を勤務させたうえその生活全般につき監護を強化してきていることおよび被害者に対して誠意を示す態度をとり続けていることが認められる。

(4) 以上のような少年の資質、生活環境、非行性の程度、本件非行の原因、非行歴、保護者の監護能力等に徴すれば、なるほど本事案は重大悪質な非行であるけれども、処遇決定にあたり、この点を重視しすぎることは相当でなく、少年を保護者による監護に加えて相当期間保護司らによる強力な指導、監督に委ね、在宅指導によつてその更生をはかることが可能かつ相当であると思料する。

よつて少年法二四条一項一号、少年審判規則三七条一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 塚田渥)

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